Story 21

4つのショート・ユーモア

太陽の悲恋

スピカは、おとめ座で透き通ったように青白く輝く星だ。別名の真珠星という名前のほうが、スピカの女性らしい透明な美しさに似合っている。

* * * * * * * *

よく晴れ上がった日に皆既日食があった。太陽が、暗くなった空で一瞬スピカを見た。そして完全な一目ぼれ。数ある星の中で、スピカしか太陽の胸の中に存在しなくなった。思いがつのればつのるほど、太陽の記憶の中でスピカはより美しくなった。恋焦がれる年月が過ぎた。

そして次の皆既日食がやってきた。日食の始まりと同時に太陽はとても興奮し、躍動する光を周囲へ放った。恋するスピカに話しかけるのには相当な勇気を必要としたが、次のチャンスは遠い将来になる。息を整える間もなく、太陽は輝き始めたスピカに質問を発した。声は、興奮しているのが誰でにでも分かるほどにふるえていた。

「あなたは、なぜいつも夜の空にいるのですか?」

スピカの美しさは夜空の全ての星に知れわたっていて、言い寄る星はとてもたくさんいた。スピカは、ストーカー並みに執拗にまとわりつく星たちにいささかうんざりしていた。

そして今度は太陽だ。無遠慮に周囲へ放散する強烈な光のおかげで、星たちの存在は完全にかき消されてしまう。スピカ自身の存在もなくなってしまう。スピカは女性らしく、自分の身のまわりのそんな諸事情を一瞬のうちに考慮し、太陽の求愛を完全に拒否することにした。

「なぜって...私はあなたと一緒に昼の空に住みたくないから、いつも夜の空にいるのよ」

明確すぎる求愛拒否の解答を聞いて、スピカが消える前に太陽が悲しそうにつぶやいた。

「私は、あなたと一緒になりたくて、いつも夜の空を追いかけていたのに」

セクシュアル・ビーイング

性がオスとメスあるいは男と女に分かれたのは、遺伝的に強い子孫を残すという、進化の強烈な意図があったためだ。セックスの目的は子孫を残すところにある。

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その惑星上では、全ての生物が上記のように行動している。ただし、覇権生物として栄華を誇っていたセクシュアル・ビーイングだけが、違う行動を取っていた。

ひと組のカップルが以前はふたりの子供を作った。すなわち、セックスは一生を通して2回で十分なはずだった。ところが、当時、かれらは一生の間に平均して3、909回もセックスをしていた。3、909ー2=3、907回のセックスは、本来の目的とは違うことのために行われていたのだ。それは性的な快楽の追求だった。

セクシュアル・ビーイングは、セックスに対して強烈な欲望を持っていた。それは、全ての意志を圧倒する本能でもあった。

セクシュアル・ビーイングは、自分たちの欲望をコントロールする術を知らなかった。その欲望達成のためには、最も近い友だちや親類縁者を裏切ったり、殺人を含む重犯罪に走ることもいとわなかった。

自分が制御不可能な欲望を持っていることをよく知っていた、各国の為政者。社会混乱の原因になっている欲望をなんとかしようという議題を、世界連合に提案した。為政者にはそれなりの罪悪感があったことになる。

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長い議論が続いた末に、セクシュアル・ビーイングを性的なスラストレーションから解放し、世界を安定化させる方法を最後に見つけた。

それはセックスの自由化だった。まず、完璧な避妊を全てのひとに義務化した。その上で、どこでもいつでも誰とでも、簡単にセックスができるように社会の変革をおこなった。誰もが股に大きな穴の開いた服を着、常に性器を露出していることを、法的に規定したのだ。こんな法律ができたことを誰もが歓迎した。それまでいくらかちゅうちょのあった欲望発散を、完全に自由化したのだから、反対者が出るはずがなかった。

こうして、公園でも、通りでも、ショッピング・センターでも、仕事の場でも、どこでもいつでも誰とでもセックスができるようになった。

セクシュアル・ビーイングは、性的なフラストレーションから完全に解放された。ところが、人々のフラストレーションが全くなくなると、予想外のことが起こった。

いつでも欲望の発散が可能になったので、欲望発散への人々の執着心がなくなってしまった。その結果として、生涯のセックス回数が急激に減ってしまった。それにともなって出生率も劇的に減少した。

ひと組のカップルが作る子供の数は、今やたった0.3人だ。 セクシュアル・ビーイングの総人口が急減している。世界連合はあわてて対策を議論しているが、セクシュアル・ビーイングが絶滅する前に結論が出るとは、とても思えない。何しろ長話が好きな連中なのだ。


(注: これは、私たちの地球から26光年離れたところにある、別の惑星の話です)
開く

男がサイフを開く。女が足を開く。


(注: これは、私たちの地球の話です)
盗難防止ベル

その郊外は街の中心部に近く、犯罪発生率が高かった。ジョンの周囲の家では、全てが盗難防止ベルを付けていた。潜在的な侵入の危険でも敏感に検出できるように、それらのベルの感度はとても高かった。余りにも高すぎた、という評価のほうが適当かもしれない。そのために、気温や風、雨などのちょっとした気候の変化が、ベルを鳴らすことになった。

* * * * * * * *

ジョン「ねえ、アン!マイクの家のベルが鳴っている。泥棒だ!」
アン「違うわ、ジョン。マイクは今日は家にいるわ。間違ってベルが鳴っているのよ」
ジョン「そうか。それなら問題ないね」

ジョン「ねえ、アン!ベルだ。今度はマリアの家。多分泥棒だ!」
アン「ジョン。マリアの家族は今日は家にいるわ。あれは間違って鳴っているのよ」
ジョン「そうか。それなら問題ないね」

ジョン「ねえ、アン!ダイアナの家でベルが鳴っている。泥棒だ!」
アン「いいえ、ジョン。彼女の家族は今日は家にいるわ。あれは間違いよ」
ジョン「そうか。それなら問題ないね」

ジョン「ねえ、アン!ビルの家のベルが鳴っている。泥棒だ!」
アン「ジョン。あそこの家は、今日はホームパーティーをやっているのよ。あれは間違いよ」
ジョン「そうか。それなら問題ないね」

ジョン「ねえ、アン!ベルだ。今度はロジャーの家から。泥棒だ!」
アン「ジョン。あの家族は2週間の休暇で家にいないわ。でも、窓に誰かの影が見える。泥棒に違いないわ!」
ジョン「そうか。それなら問題ないね」


(注: これは、日本などよりも犯罪発生率がはるかに高い、アメリカの某都市の話です)
小説 2012/9/21

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